時給保障は日本で消え、豪州で法になった続いても、稼げるとは限らない
Dice
現役配達員が運営

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鳴らない時間があっても、走った分の時給は出る。そう聞いたら、悪くない話に思えます。
2025年にUber Eatsが試した「フラットレート」です。仙台と横浜で始まり、その年の9月には東京や大阪を含む11都市に広がりました。
それが、1年たたずに使えなくなりました。
ほぼ同じ設計のものが、2026年8月からオーストラリアでは法律になっています。時給はおよそ3,000円。同じ中身が、日本では消えて、豪州では法になりました。
日本では「安定して稼げる」はずだった
フラットレートが始まったとき、期待されていたのは安定でした。鳴らない時間があっても、走った分の時給が保障される。読めない日払いの世界に、床ができるように見えました。
実際は違いました。
まず、案件を選べません。適用中に拒否やキャンセルができるのは1時間に1件までで、それを超えると通常の報酬制度に戻されます。保障を守ろうとすると、飛んできたものをほぼそのまま受けることになります。
遠い店、重い荷物、入りにくい建物。断りたい案件ほど断れない。
そして、回ってくる案件が妙に悪い気がしてくる。鳴りそのものが絞られている気もしてくる。どちらも外からは確かめようがないので、疑いだけが残ります。
Aide編集部が稼働した範囲では、2026年4月以降に使えなくなりました。Uber Eatsは終了もその理由も公表していないので、何が決め手だったのかは分かりません。ただ、評判が芳しくなかったのは確かです。
豪州は法にした
同じ時期、オーストラリアは逆の方向へ進みました。
公正労働委員会という政府の機関が、2026年8月に配達員の最低報酬を決めました。労働組合とUber Eats、DoorDashが合意した案が土台です。8月17日から動いています。
金額は車両によって少し変わりますが、日本円でおよそ3,000円前後。2027年分の額まで、すでに決まっています。
払われ方は日本と似ています。1件ごとに固定額が出るのではなく、一定期間の配達中の時間をまとめて計算して、足りなければ後から差額が払われる形です。
違うのは、やめられないことです。プラットフォームの都合で静かに終わる試験ではなく、命令として動いています。日本のフラットレートが消えたこと自体が、任意でやる仕組みの弱さを示していました。
保障される人ほど、急ぐ理由がなくなる
配達中の時間で時給を保障する。この考え方は日豪で共通していて、ひとつ変な性質を抱えています。
保障額は配達中の時間で決まります。速く届けても、その分だけ額が増えるわけではありません。
すでに保障額を上回って稼いでいる人には、これは関係ありません。速く回れば件数が伸びて、報酬もそのまま増えます。
引っかかるのは保障を受ける側です。報酬が時間だけで決まるので、速く届けても手取りは変わりません。 急ぐ理由がなくなります。
制度が助けようとしている人ほど、効率よく動く動機を失う。きれいな設計とは言えません。
豪州の命令も、そこは完全には塞げていません。休憩や、途中で放棄した配達の時間は計算から外れますが、連続して働いていて遅いだけの人を止める仕組みはありません。
そして遅く動く人が増えるほど、補填は膨らみます。プラットフォームからすれば、単価を上げるより、誰がいつオンラインにできるかを管理するほうが安く済む。
先に始めた街では、働ける時間が減った
保障が緩みを生み、緩みが締め付けを呼ぶ。この先に何が起きるかは、すでに答えを出した街があります。ニューヨークです。
ニューヨーク市は2023年12月から、レストラン配達アプリに最低報酬を義務づけました。豪州より3年近く早く、同じことをやっています。
アプリ側がどう対応したかは、市の担当部局が自分で書き残しています。シフト制を用意して、シフト外のログインを制限した。 いつでもオンラインにできる状態を、やめたわけです。
理屈は分かります。暇な時間に人が溢れたままだと、1人あたりの配達時間が短くなって補填ばかり増える。働く人数と時間を管理できれば、補填を抑えられます。
時給の下限は決まりましたが、いつ働くかは自分で決められなくなりました。
決まったのは「1時間あたりいくら」で、「いつオンラインにできるか」は決まっていません。好きなときに働ける自由と、時間あたりの保障は、思ったより仲が悪いようです。
報酬水準そのものは上がっています。2026年4月からは時給22.13ドル。**上がった時給と、減った自由度。**どちらを取るかという話で、単純に悪くなったとは言えません。
法になっても、待っている時間は無給のまま
豪州に話を戻します。働ける時間の話を別にしても、いちばん大事なところが日本と同じまま残りました。
保障されるのは案件を受けてから届けるまでで、次の案件を待つ時間には何もつきません。 1時間オンラインにしていて配達が30分なら、残りの30分は計算に入らない。
鳴らなかった時間まで含めた実時給で見ると、額面とはかなり違う数字になります。
燃料代も整備費も自分持ちなのも変わりません。しかも豪州の公正労働委員会は、この金額では配達員の経費を十分に賄えないと自ら認めています。 制度を作った側が足りないと言っている。
つまり豪州でも、「安定して稼げる」にはなっていません。日本で起きた期待外れは、法律になった国でも起こりえます。
豪州は日本と違って、やめられません。ただ、続くことと稼げるようになることは、別の話です。法で守られた配達員の手取りが本当に増えるのか、答えが出るのはこれからです。
出典
- 豪州 公正労働委員会「配達員の最低基準に関する暫定命令」(Interim On-Demand Delivery Employee-like Worker Minimum Standards Order・PDF)——車両別の最低額、配達中の時間の定義、集計と差額の計算
- 豪州 公正労働委員会「最低基準の決定」(Decision [2026] FWCFB 211・2026年8月11日・PDF)——命令の発出、8月17日施行
- 豪州 公正労働委員会「命令案の公表と意見募集」(Decision [2026] FWCFB 167・2026年7月8日・PDF)——最低額と配達員が負担する経費の関係
- 豪州 公正労働委員会「最低基準をめぐる審理の記録」——決定日と施行日
- ニューヨーク市 消費者労働者保護局「配達員の権利」——最低報酬ルールの執行開始と現行の時給
- ニューヨーク市 消費者労働者保護局「配達員の最低報酬に関する最終規則」——2023年ルールへのアプリ側の対応(シフト制の導入とシフト外ログインの制限)
- ニューヨーク市長室「ロックアウト削減に関するUber・Lyftとの合意」——ライドシェアでのロックアウトと2024年の合意
- Uber Eats Japan「配達パートナー向け「フラットレート」の試験導入を主要都市で実施」——日本での試験地域、報酬の計算方法、拒否・キャンセル条件
海外の資料はいずれも英語です(2026-08-26確認)。
※この記事は公開情報をもとにした一般的な整理です。豪ドルの円換算は執筆時点のおおよその水準です。豪州の最低基準は暫定的なもので、今後見直される可能性があります。最新の内容はFair Work Commissionの公式情報でご確認ください。