配達中の商品に手をつけると何罪?罪名は「誰が持っているか」で変わる
Dice
現役配達員が運営

この記事の目次
2026年8月、配達員が配送中の商品に手をつけたのではないかと受け取られた動画がSNSで拡散しました。
ただし、公開された映像だけでは、食べているものが配達商品なのか、撮影時が配達中だったのかは確認できません。
ロケットナウは8月17日、公式SNSで「事実関係の確認を進めている」と表明しました。配送中の商品を無断で飲食したり窃取(せっしゅ)したりする行為は法令およびドライバー向け利用約款に反するもので、「一切容認いたしません」としています。
この表明も、動画に映った行為を事実と認定したものではありません。
この記事でも、動画の人物が配達商品に手をつけたとは断定しません。整理するのは、仮に配達中の商品に手をつけた場合、法律上どう扱われるのかです。
そしてもう一つ、大半の配達員にとってはこちらが本題ですが、やっていないのに疑われる側にならないために何をしておくかを扱います。
罪名は占有で決まる
仮に配達中の商品に手をつけた場合、窃盗を思い浮かべる人が多いと思いますが、実はここは一段深い話になります。
刑法上、窃盗罪(第235条)は「他人の財物を窃取した」場合に成立します。窃取とは、ざっくり言えば他人が持っているものを、その人の意思に反して自分のものにすること。つまり商品が「他人の占有下」にあることが前提です。
一方、横領罪は逆で、自分が預かって持っているものを自分のものにしたときに成立します。業務として預かっていると評価される場合は業務上横領罪(第253条)です。
配達バッグに入って走っている商品は、誰が「持っている」ことになるのか。ここの評価で罪名が変わります。
注意したいのは、バッグに入れて運んでいることが、そのまま法律上の「占有」になるわけではないという点です。運ぶために一時的に持っているだけで、支配は店や運営の側に残っていると見られることもあります。
| 商品の占有 | 成立しうる罪 |
|---|---|
| 店や運営の側にある | 窃盗罪(第235条) |
| 配達員が預かっている | 業務上横領罪(第253条) |
どちらに当たるかは契約の内容や運用の実態で判断されるため、一律にどちらとは言えません。ただ、配達員にとって重要なのはどちらに転んでも軽くはないということのほうです。
業務上横領には罰金刑がない
法定刑を条文どおりに並べると、こうなります。
- 窃盗罪(第235条)… 10年以下の拘禁刑、または50万円以下の罰金
- 業務上横領罪(第253条)… 10年以下の拘禁刑
- 単純横領罪(第252条)… 5年以下の拘禁刑
上限はどちらも10年で同じですが、業務上横領には罰金刑という選択肢がありません。窃盗なら罰金で終わる可能性がある事案でも、業務上横領として構成されると罰金という出口がない、という差があります。
なお「懲役」ではなく「拘禁刑」となっているのは、2025年6月1日に懲役と禁錮が廃止されて拘禁刑に一本化されたためです。刑法制定以来はじめて刑の種類が変わった改正で、条文の文言も置き換わっています。
商品1個の話で拘禁刑と言われるとピンと来ないかもしれませんが、実際にどの程度の処分になるかは金額だけで決まるものではありません。少なくとも「食べ物1個だから」で説明のつく領域ではない、という位置づけです。
契約違反だけでは終わらない
問題になるのは、運営との契約違反だけではありません。刑事責任、損害賠償、アカウント上の措置は、それぞれ別に検討されます。
契約形態だけで刑事責任を免れることはありません。ただし、窃盗と横領のどちらに当たるかは、商品の刑法上の占有など個別の事情で変わります。
お金の話も同じです。結論から言うと、商品代を弁償して終わり、にはなりません。
注文者への返金や店への補償を、まず運営が肩代わりすることがあります。ただしそれは立て替えであって、免除とは限りません。あとから配達員本人に請求が回ってくることもあります。
しかも請求書が届くとは限りません。損害賠償額を、配達員へ支払う報酬と相殺できると定めている会社があります。つまり次の振込から引かれる形になり得ます。
請求の範囲も、食べた商品の代金だけとは限りません。どこまで求められるかは各社の約款の定め方によるので、自分が走っている会社の賠償条項は一度読んでおくのが確実です。
そのうえでアカウントの停止です。
つまり、起きることは3つあって、それぞれ別々に走ります。
- 刑事 … 警察・検察の手続き
- 民事 … お金の請求
- アカウント … 停止や剥奪
「アカウントが止まったからもう終わり」でも「弁償したから終わり」でもない。商品1個に対して、出口が3つ開くという構造です。
疑われる側にならないために
ここまでは、配達中の商品に手をつけた場合の一般論です。ただ、わざわざ人の食べ物に手をつける配達員は、そうそういません。
現場で実際に起きるのは、やっていないのに疑われるほうです。「頼んだドリンクが入っていない」「ポテトが減っている」「袋が開いていた」。こちらのほうが、よほど身近に起こりうる話ではないでしょうか。
しかもこの手のクレームは、配達員側に何も残っていないと反論のしようがありません。届けた後に言われるので、その時点では商品も現物も手元にない。受け取り時点と受け渡し時点に何を残しておくかが、そのまま自分の防御になります。
正直めんどうな作業ですが、疑われてから慌てるより安いです。
封と袋の状態を見る
まず店で受け取るときです。
- 開封防止シールが貼られているか
- すでに開いている袋を渡されていないか
- 袋が破れている、底が濡れている
シールが貼られていない、あるいは剥がれかけた状態で渡されたときは、その場で店員に伝えて貼り直してもらうのが確実です。難しければ、アプリのサポートへ報告して記録を残します。写真を残せる仕組みがアプリ側にあるなら、そちらを使うのが確実です。
というのも、配達で知った情報の撮影や保管を「会社の指定した媒体を通じてのみ」と定めている約款があるためです。自分の端末に何でも撮って溜めておく運用は、記録としては強くても契約上は安全とは限りません。
ただ、サポートがすぐ繋がるとは限りません。待たされることも、何度かけても繋がらないこともある。だからこそ店を出る前に動くほうが効きます。 走り出してから連絡しようとすると、待ち時間がまるごと自分の稼働時間から引かれます。
電話が繋がらないなら、記録の残るチャットに投げておくだけでも違います。
「開いた状態で受け取った」ことを後から示せるかどうかで、話がまったく変わります。
ここで前提になるのが、配達員は袋を開けられないということです。中身を数えて確かめたくても、袋の開封は基本的に認められていません。「開けて確認する」という選択肢がそもそもないので、外から見て気づいたことを店に返すしかない。
開封防止シールも、粘着が弱くて触れただけで浮くものが少なくありません。開けたことが確実に分かるタイプのシールを使っている店ばかりではない、というのが正直なところです。だからこそ、渡された時点の状態を押さえておく意味があります。
商品の中身そのものを受諾直後にどう見るかは「商品内容を先に見る」で扱っているので、あわせてどうぞ。
不足は店を出る前に言う
ドリンクや別添えの品は、店側の袋詰め漏れが普通に起きます。
セット商品でドリンクの記載があるのに袋が1つしかない。こういうときは店を出る前に確認して、その場で解決します。
店を離れてから気づくと、戻る時間もかかりますし、何より「配達員が抜いたのでは」という疑いの余地が生まれます。
しかもこれは評判だけの話ではありません。会社によっては「物品の一部が不足する場合」を、報酬の減額・返還や商品価格相当額の支払いを求められる事由として明記しています。
ただし同じ条項には歯止めもあって、配達員の責めに帰すべき事由がない限り減額しないと書かれているのが通常です。店の袋詰め漏れなら、本来は対象外ということになります。
つまり「自分のせいではない」と示せるかどうかが、そのまま金額に効く。記録を残すのが面倒に見えて一番安いのは、ここが理由です。
不足のまま届けざるを得ない場合は、届ける前にアプリのサポートへ連絡して記録を残します。口頭で注文者に説明するだけだと、記録がどこにも残りません。
届けた後に「足りない」と連絡が来ることもあります。このときに注文者と直接やり取りを続けるのは避けたほうが無難です。アプリのサポートへ問い合わせてもらうよう伝えて、そこで終える。
自分で解決しようとして再訪問したり返金の話をしたりすると、どこにも残らないやり取りだけが増えます。配達完了後の連絡や訪問は各社とも制限がかかっているので、良かれと思った対応がかえって不利に働くこともあります。
置き配は写真で終わらせない
置き配は、届けた後の紛失が配達員の責任にされやすい場面です。
- 商品全体が写っているか(袋の一部だけだと中身が分からない)
- 置いた場所が特定できるか(玄関まわりの様子や部屋番号を入れる)
- 玄関先が暗いときはライトを当てて撮る
雑に足元だけ撮った写真は、後から「これは別の家では」「袋が違う」と言われたときに何も反証できません。その1枚が唯一の証拠になる前提で撮ります。
気をつけたいのは、室内や通行人が写り込むことくらいです。ドアが開いた状態で撮ると、玄関の中まで入ってしまうことがあります。
部屋番号は入れて構いません。 この写真はアプリ経由で注文者と運営に渡るもので、どちらもその部屋番号を元から知っています。写ったところで新しく漏れる相手がいない。
むしろマンションで玄関前の見た目が揃っている場合、部屋番号が唯一の手がかりになります。目印のない部屋前ほど、入れておく意味があります。
顧客と連絡がつかないときの手順を明記している会社もあります。アプリから複数回電話を試みてから、置き配できると判断できる場合に限って玄関脇に置き、その状態を撮影してサポートへ連絡する、という流れです。
逆に、オートロックで玄関前まで行けない場合は置き配しないと定めていることもあります。エントランス前に置いて完了させると、紛失したときに自分の責任になりかねません。判断に迷ったらサポートへ回すのが、結局は安全側です。
住所やピンの読み方そのものは「配達先が見つからない:ピンずれ・住所不備で迷ったときの探し方」を見てください。
速すぎても遅すぎても疑われる
見落とされがちですが、自分の行動の履歴そのものが疑いの材料になります。
よく出るのが、システム側の自動判定から確認の連絡が飛んでくる話です。ごく短距離の案件を短時間で終えたときに「店舗で商品を受け取りましたか」「配達は完了しましたか」と照会が来た、ルートを外れたことを指摘する警告が届いた、といった報告があります。
厄介なのは、身に覚えがなくても来ることです。事故で幹線道路が止まって大回りしただけ、開かずの踏切を避けただけ、というケースでも飛んできます。渋滞回避の迂回であれば問題にはならないとされていますし、単発であれば気にしなくていい、という話もあります。
逆に、同じ場所に長く留まるのも見られています。ピンずれで建物を探して10分以上ウロウロしていたら、店の管理画面からは「動かない配達員」に映っていて、時間を故意に引き延ばしていると受け取られた、という話も出ます。
落ち度がなくても照会は来る。だとすれば、時間がかかった理由を後から言えるかどうかが分かれ目になります。探していた、待たされた、通行止めだった。その程度の心当たりが残っていれば落ち着いて返せます。
受諾の過度な拒否、受諾後の注文取消し、割当の無視を、サービス品質を下げる違反事例として約款に列挙している会社もあります。しかも制限措置は先に実行して、理由の通知は後という建て付けです。
気づいたら止まっていた、という順序があり得るということです。
一部の行為が全体の負担になる
配達員による不正を疑わせる動画が拡散すると、事実関係が未確認でも影響は一個人にとどまりません。
置き配の運用が厳しくなる、封をする手間が増える、注文者側の不信感が上がってチップや評価が下がる。プラットフォームが対策を入れれば、その工数は結局どこかで配達員側の作業時間になります。
配達は、注文者からは中身の見えない数十分を他人に預ける仕組みで成り立っています。その前提が疑われると、真面目に走っている人ほど余計な手間を負う。
自分がやらないのは当然として、それだけでは足りません。
疑われたときに証明できる状態にしておくところまでが、いまの配達では仕事のうちです。
出典
- 刑法(e-Gov 法令検索)第235条(窃盗)・第252条(横領)・第253条(業務上横領)
- 民法(e-Gov 法令検索)第709条(不法行為による損害賠償)・第715条(使用者等の責任、第3項に求償権)
- 法務省「拘禁刑下の矯正処遇等について」(懲役・禁錮を廃止し拘禁刑を創設、2025年6月1日施行)
- ロケットナウ公式X(@RocketNow_JP)「配送中の商品の無断飲食・窃取に関する声明」(2026年8月17日。事実関係の確認中である旨と、仮に該当行為があった場合は容認しない旨の表明)
- ロケットナウ「ロケットナウ利用約款-ドライバー向け-」(配達業務に関する権利・義務。第19条=情報の撮影・保管、第22条=損害賠償と報酬との相殺、別紙5=減額・損害賠償の事由、別紙6=配達サービスの指標、別紙8=制限措置)
- 罪名の当てはめや量刑は事案ごとの事情によって異なります。法令は改正されることがあるため、最新の条文をご確認ください。
※本記事は一般的な情報の整理です。個別の事案についての判断は、弁護士など専門家にご相談ください。