配達中にケガで走れない。
その間の収入、労災「特別加入」で補える?
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現役配達員が運営

この記事の目次
配達は、体が資本の仕事です。元気に走れているうちは、あまり考えないかもしれません。
でも、いざ配達中の事故でケガをして、しばらく走れなくなったら。治療費がかかり、その間は稼げません。
とくに相手のいない自損事故だと、誰かが払ってくれるわけでもなく、そのまま収入が止まるのが基本です。
会社員なら、こういうときに労災(労働者災害補償保険)が効きます。でも配達員の多くは個人事業主で、そのままでは労災に入っていません。
この空白を自分で埋める選択肢が「特別加入」という制度です。「入るべきか」「どれに入るか」が繰り返し話題になるテーマなので、仕組みから団体の選び方まで整理しておきます。
労災はそもそも雇われている人の制度
労災保険は、事業に「雇われて働く人」を守るための制度です。保険料は雇い主が負担し、業務中や通勤中のケガ・病気・障害などを補償します。
配達員はプラットフォームから業務委託を受けて働く個人事業主なので、この原則のままでは対象になりません。走っている最中の事故も、原則は自分の民間保険か自腹、という立ち位置です。
個人事業主が入る例外が「特別加入」
その例外が特別加入です。一人親方や特定のフリーランスなど、実態として労働者に近い働き方をする人が、任意で労災に入れる仕組みです。
入っておくと、業務中の事故で療養(治療費)や休業、障害・遺族への給付といった労災の補償を受けられます。民間の傷害保険とは別枠で、公的な補償が土台にできるのが大きな違いです。
いつから配達員が対象になったか
配達員まわりでは、対象が段階的に広がってきました。
- 令和3年(2021年)9月1日から、自転車を使う配達員が特別加入の対象に。
- 令和6年(2024年)11月1日から、業務委託を受けて働く「フリーランス」(特定受託事業従事者)が幅広く対象に。
つまり今は、自転車でも原付でも軽貨物でも、配達で走る人が入れる下地はそろっています。
車両で入口が変わる
ここが見落とされやすいのですが、同じフードデリバリーでも、使う車両で加入ルートが分かれます。
- 自転車での配達は、自転車を使う貨物運送の枠。
- 原付・バイク・軽貨物での配達は、原動機付自転車や自動車を使う貨物運送(いわゆる一人親方の貨物運送)の枠。50ccでも125ccでも、エンジンのついた車両はこちら側です。
注意したいのは、2024年にできた「特定フリーランス事業」という枠では、原付・バイクや自動車を使うフードデリバリーは対象外とされている点です。
「フリーランス労災」と名のつく団体なら何でもいい、という話ではありません。自分がどの車両で走っているかで、入るべき区分が変わります。
何が「業務中」のケガに入るか
労災(特別加入)が補償するのは、業務中に起きた災害です。ここで押さえておきたいのは、対象が車両の交通事故に限られないこと。
配達物を持って階段で転んだ、荷物を積み下ろすときに腰を痛めた、夏場に配達中の熱中症で倒れた。こうしたケガや体調不良も、業務によるものと認められれば対象になりえます。
事故の「形」ではなく、業務の最中に起きたかどうかで見るのが基本です。
では、店にピックへ向かっている移動中はどうか。注文を受けて店に向かい、商品を受け取って届けるまでの一連は、配達業務として扱われるのが基本の考え方です。
ただし特別加入では、補償される範囲が加入時に申請した業務の内容に紐づきます。最終的には個別のケースを労働基準監督署が「業務中の災害と言えるか」で判断します。
線引きが曖昧になりやすいのは、アプリをオンにして待機しているだけの時間や、業務と関係ない寄り道の最中です。
ここは団体によって説明が食い違うことがあります。「案件を持っている間だけ」と理解している人もいれば、団体から「配達完了後、次の案件を待ちながらの走行中なら問題ない」と回答を得た人もいる。一律に決めにくい領域なので、加入する団体や労働局に、自分の稼働スタイルで確認しておくと安心です。
なお、配達員が入るこの区分(個人で貨物運送をする一人親方など)では、会社員の労災と違って、自宅と稼働エリアの往復といった通勤の途中は原則として対象外です。
あくまで業務中に起きた災害が対象、という線引きになります。
入っていないと、治療費は3割・休業はゼロ
よく誤解されているのが、健康保険との関係です。「業務中のケガに健康保険証は使えない」と言われることがありますが、配達員には当てはまりません。
健康保険が対象外にしているのは、労災保険法でいう「業務災害」です。特別加入していない個人事業主の配達中のケガはこれに当たりません。
なので、専業なら国民健康保険、会社員の副業なら会社の健康保険が普通に使えます。2013年の法改正で、労災からも健康保険からも出ない空白は埋められました。
ただし、使えることと足りることは別です。
| 治療費 | 休業 | |
|---|---|---|
| 特別加入していない(専業) | 3割の自己負担あり | なし |
| 特別加入していない(副業) | 3割の自己負担あり | 本業を休むなら傷病手当金 |
| 特別加入している | 全額(自己負担なし) | 日額の8割(4日目から) |
とくに専業がきびしくなります。国民健康保険の傷病手当金は、条例で定めれば行える任意の給付で、法律上かならずあるものではありません。
会社の健康保険なら本業を休んだときに傷病手当金がありますが、専業の配達員には走れない期間を埋めるものが何もない。
痛いのは治療費より、収入がまるごと止まることのほうです。
入ったら健康保険証は出さない
特別加入したあとは、業務中のケガが労災の「業務災害」になります。そうなると健康保険は使えません。 窓口で保険証を出してしまうと、あとから返還を求められて手続きが増えます。業務中なら労災で通してください。
補償は一律 違うのは手数料だけ

「A社の労災は補償が弱い」「B社のほうが手厚い」といった声をよく聞きます。でも労災(特別加入)の中身は国の制度なので、実は団体では変わりません。3つに分けると整理できます。
- 補償の中身(治療費・休業・障害・遺族への給付など)は法律で一律。どの団体を通しても同じで、強い・弱いの差はありません。
- 給付額は保険料次第。所得に応じて給付基礎日額(3,500〜25,000円の16段階)を選び、高い日額ほど保険料も給付も大きくなります(「日額◯◯円コース」はこの選択のこと)。
- 団体で違うのは手数料。国の労災に入るために団体へ払う入会金・組合費は、団体ごとに差があります。
つまり、補償は一律で、給付額は選ぶ日額(=払う保険料)で決まる。団体ごとに違うのは手数料だけ。「補償が弱い・強い」と言われても国の労災そのものは同じなので、実際に見比べるべきは手数料です。
日額を選ぶときに勘違いしやすいのが、何が日額に連動するかです。さきほど見たとおり治療費は全額出ますが、これは日額とは関係ありません。日額で増減するのは休業や障害・遺族の給付のほうです。
しかも休業は「日額まるまる」ではなく、1日あたり日額の8割(給付6割+特別支給金2割)。支給は働けない4日目からで、最初の3日は待期として出ません。たとえば日額10,000円なら、休業は1日8,000円の計算です。
国に納める保険料は「給付基礎日額 × 365日 × 保険料率」で決まります。配達(自転車・原付などを使う貨物運送)の料率は1,000分の11(令和8年度も同率で据え置き)。日額ごとの本体はこのくらいです。
| 給付基礎日額 | 国に納める保険料(年・本体) |
|---|---|
| 3,500円(最低) | 14,052円 |
| 10,000円 | 40,150円 |
| 25,000円(最高) | 100,375円 |
ただし、実際に払うのはこれだけではありません。ここに団体の組合費(手数料)が上乗せされます。
手数料は団体ごとに差があり、低い日額では本体と同じくらい乗ることもあります。加入前に、団体ごとの月額・年額の"総額"で見比べてください。
労災は事故の形を選ばない
事故には、単独で転ぶ自損事故もあれば、相手がいる事故もあります。労災(特別加入)の強みは、どちらでも給付が出ることです。
自損でも、相手がいても、さらに自分に過失があっても、労災の療養・休業給付は出ます。とくに労災は、自分の過失があっても給付を減らされません(過失相殺がない)。
ただし例外があります。故意に起こした事故は給付されず、故意の犯罪行為や重大な過失による場合は、給付の全部または一部が行われないことがあります(労災保険法12条の2の2)。過失相殺がないというのは、通常の不注意までの話です。
変わるのは「相手の保険」のほうです。相手の任意保険は、相手がいて初めて出るうえに、自分の過失の分だけ減らされます。
たとえば損害が10万円でも、自分の過失が3割なら出るのは7万円ほど。ガードレールに突っ込んだ自損なら、そもそも相手の保険はゼロです。
だから、自損や自分の過失が大きい事故ほど、相手の保険で埋まらない穴が出ます。そこを、事故の形を問わず出る労災がカバーできる——ここが労災を持っている意味です。
ただし、同じ休業の損害について、相手の保険と労災の両方から満額もらう二重取りはできません。給付は調整される仕組みで、実務上は「どちらで受けると有利か」を整理する話になります。
なお休業などの特別支給金(日額2割の分)は、損害賠償との調整の対象外なので、こちらは別枠で受け取れます。
見落としやすいのが、自分の任意保険との兼ね合いです。個人で入っているバイクや車の任意保険には、"業務使用"や配達中の事故を対象外にしている商品があります。
「保険に入っているから大丈夫」が配達中は効かないことがあります。どの会社が引き受けるか、どこで断られるかは「配達で使うと保険に入れない?」に整理しました。
自転車の場合、自転車保険は主に相手への賠償をカバーするもので、自分のケガや休業は労災や人身傷害の担当、と役割が分かれます。
出るまでには時間がかかる
金額と同じくらい効いてくるのが、お金が振り込まれるまでの時間です。
労災の給付は、申請してすぐ振り込まれるものではありません。業務中の災害かどうかを労働基準監督署が調べるので、事故から支給まで数か月かかることがあります。相手のいる事故で示談がもつれると、さらに延びます。
つまり労災は、走れない期間の生活費をその月に埋めてはくれません。当座をしのぐ現金は別に要ります。数か月分の蓄えか、給付の早い民間の共済・傷害保険を併せて持っておくと、待っている間に詰まらずに済みます。
事故直後にやることと、その順番は「配達中に事故を起こしたら」にまとめています。申請に必要な記録も、その場で残せるかどうかで変わります。
会社員をしながらでも入れる
「本業で会社員をしているけど、副業の配達では入れないのでは」と思う人もいますが、入れます。
特別加入は「配達の仕事」に対して入るものなので、別に給与があること自体は妨げになりません。
さらに複数事業労働者の制度により、本業の給与と副業(特別加入)の両方で補償を受けられます。休業補償の計算も、両方の収入をもとに考えられる形になっています。
本業は会社の労災、配達は特別加入で、どちらもカバーする——ダブルワークの配達員はむしろ制度上、手厚くできる立ち位置です。給与と配達の組み合わせで手取りや保険料がどう変わるかは「配達のダブルワーク、得なのは税金ではなく保険料」でも整理しています。
団体は厚労省の一覧で選ぶ
特別加入は個人で直接は入れず、都道府県労働局長の承認を受けた「特別加入団体」を通して申し込みます。
ここで一つ実務的な注意を。承認された団体の正式な名簿は、厚生労働省が「特別加入団体一覧表」として公開しています。
ところが、サービスとして広く名前を見かける労災でも、そのブランド名では一覧に載っていないことがあります。運営会社のサービス名と、労働局に登録された正式な団体名が違うためです。
実際、厚労省の一覧を当たると、フードデリバリー配達員の部会を持つ団体が正式名で載っている一方、ブランド名では引っかからないケースがあります。
加入を検討するときは、広告のブランド名を鵜呑みにせず、厚労省の団体一覧で、自分の車両区分に対応した団体を正式名で確認するのが確実です。迷ったら、地域の労働基準監督署や労働局に聞くのが早いです。
まとめ
- 配達員は労災に自動では入っていない。任意で入る「特別加入」がその受け皿。
- 入っていなくても健康保険は使える。ただし治療費は3割負担で、専業なら休業の補償はゼロ。
- 補償の中身は全国一律。差がつくのは団体の手数料と、別売りの民間上乗せ。
- 車両(自転車/原付・軽貨物)で加入ルートが分かれる。
- 給付は申請してすぐ出ない。数か月かかることがあるので、当座の現金は別に要る。
- 会社員をしながらでも入れて、むしろ合算で手厚くできる。
- 団体はブランド名でなく、厚労省の一覧+自分の車両区分で選ぶ。
制度は改正されることがあります。加入前に、下記の公式情報で最新を確認してください。
出典
- 厚生労働省「労災保険への特別加入」(特別加入団体一覧表もこのページから)
- 厚生労働省「令和6年11月1日から「フリーランス」が労災保険の「特別加入」の対象となりました」
- 厚生労働省「特別加入保険料率表(令和6年11月1日施行)」(PDF・2026-08-24確認・貨物運送の特別加入は「特1」=1,000分の11)
- 厚生労働省「令和8年度の労災保険率について(令和7年度から変更ありません)」
- 厚生労働省「休業(補償)等給付の計算方法」(休業は日額の8割・4日目から)
- e-Gov法令検索「労働者災害補償保険法」第12条の2の2(故意は不支給、故意の犯罪行為・重大な過失は給付の全部または一部を行わないことができる)
- e-Gov法令検索「健康保険法」第1条(給付の対象外は「労災保険法の業務災害」に限られる)
- e-Gov法令検索「国民健康保険法」第58条第2項(傷病手当金は条例・規約による任意給付)
- 厚生労働省「平成25年健康保険法等の一部を改正する法律について」(2013年10月1日施行・労災の対象外となる業務上の負傷を健保でカバー)
本記事は一般的な情報の整理です。加入の可否や個別の判断は、厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署などの公式情報でご確認ください。