稼いだお金、どこに置く?
NISA・iDeCo・共済の順番
Dice
現役配達員が運営

この記事の目次
配達の入金は、日払いや週払いで細かく入ってきます。生活費と経費を引いて、毎回いくらか手元に残る。その余った分を、とりあえず口座に置きっぱなしにしている人は多いはずです。
行き先としてよく名前が挙がるのが、付加年金・小規模企業共済・iDeCo・NISAの4つ。並べて紹介されることが多いのですが、この4つは同じ土俵に乗っていません。
しかも配達の稼ぎは月ごとに振れます。ボーナスをまとめて置く話ではなく、毎月変わる余剰を流し込む先を決める話なので、「後から止められるか」も効いてきます。
そして順番は、制度の優劣で一律に決まるものではありません。入口の控除がどれだけ効くかは自分の税率で変わるので、課税所得は大きな判断軸のひとつになります。ここを先に押さえておくと迷いが減ります。
4つは同じ土俵にない
分かれ目は「税金がどこで安くなるか」と「後から動かせるか」です。
| 掛金の所得控除 | 運用益 | 引き出し | 積立額の変更 | |
|---|---|---|---|---|
| 付加年金 | あり(国民年金の保険料) | — | 65歳から年金 | 定額(月400円) |
| 小規模企業共済 | あり(全額) | — | 廃業・解約時 | いつでも増減 |
| iDeCo | あり(全額) | 非課税 | 原則60歳から | 年1回だけ |
| NISA | なし | 非課税 | いつでも | いつでも |
前の3つは、掛けた年の所得から引ける「入口の節税」です。NISAだけは控除がゼロで、代わりに増えた分に税金がかからない「出口の非課税」。
つまりNISAは節税商品ではなく、税引き後のお金を置く器です。ここを混ぜて考えると比較を間違えます。
控除の効き目は税率で決まる
入口の節税は、自分の税率のぶんだけ戻ってくる仕組みです。所得が低ければ戻りも小さくなります。
中小機構が公表している節税額の一覧が分かりやすいので、小規模企業共済の数字で見てみます。掛金は月1万円(年12万円)で、表の金額は所得税・復興特別所得税・住民税を合わせたものです。
| 課税される所得金額 | 年間の節税額 |
|---|---|
| 200万円 | 20,700円 |
| 400万円 | 36,500円 |
| 600万円 | 36,500円 |
| 800万円 | 40,100円 |
同じ12万円を預けても、課税所得200万円の人と400万円の人では戻りが1.7倍違います。
ここでいう「課税される所得金額」は、売上から経費と各種控除を引いた後の額です。年商ではありません。配達1本でやっている人だと、思ったより低い段に乗っていることが多いです。
国保料は控除では下がらない
もうひとつ、見落とされがちな点があります。
小規模企業共済やiDeCoの掛金で所得控除を受けても、国民健康保険料は下がりません。国保の所得割は「総所得金額等から基礎控除43万円を引いた額」で計算され、社会保険料控除などの各種所得控除は反映されないためです。
会社員向けの記事だと「控除で社会保険料も安くなる」と書かれることがありますが、国保の配達員には当てはまりません。戻ってくるのは所得税と住民税のぶんだけ、と見ておくのが安全です。
付加年金は比較の外にある
付加年金は、国民年金の保険料に月400円を上乗せして納める仕組みです。
受け取る額は「200円 × 付加保険料を納めた月数」で、これは年額です。1か月納めるごとに年200円が終身で上乗せされる、と考えると分かりやすいと思います。
1年納めれば4,800円払って年2,400円の上乗せ。2年受け取れば払った分を超える計算です。納付期間に関係なく、損益分岐は受給開始から2年です。
月400円なので、他の枠と取り合いになりません。iDeCoやNISAのような「お金の置き場所」ではなく、すでに払っている国民年金へのプラスアルファです。順番の外に置いていい枠だと思います。
ただし2つ注意点があります。
- 国民年金基金に入っている人は付加年金に入れない(併用不可)
- iDeCoの枠から、納めた付加保険料の分が差し引かれる
手続きは市区町村の窓口か年金事務所のほか、マイナポータルからの電子申請にも対応しています。付加保険料納付申出書は電子申請の対象なので、窓口に出向かなくても済みます。
先に済ませてよい枠
月400円で他の積立を圧迫しません。どれを優先するか考える前に、申出だけ出しておけば済みます。
小規模企業共済は廃業の受け皿
配達員にとって、この制度は節税より「走れなくなったときの受け皿」として読むほうが実態に合います。
掛金は月1,000円から7万円まで、500円単位。加入後の増額・減額もできます。所得がなくて納付が難しいときは、6か月または12か月の掛止めもできます。収入が年で波打つ配達員には、この可変性が効きます。
副業の配達員は入れない
先に加入資格を確認してください。ここでつまずく人が多いはずです。
対象は、開業届を出して事業所得で確定申告している個人事業主です。従業員数の上限もありますが、一人で走っている配達員なら問題になりません。
引っかかるのは給与所得がある人です。中小機構は、会社員が副業で個人事業を行っている場合について「主たる事業はサラリーマンであり、加入資格のある小規模企業者とは認め難いため、ご加入することができません」としています。
会社員をしながら週末に配達している人は、この時点で対象外です。労災の特別加入は会社員でも入れましたが、共済は入口が違います。
会社員と配達を掛け持ちしたときの保険や扶養の扱いは「ダブルワークの健康保険と年金」にまとめています。
給与所得があると加入できない
開業届を出していても、本業が会社員なら対象外と判断されます。掛金の節税を当てにして計画を立てる前に、加入資格を先に確認してください。
元本割れの話は解約の話
「20年続けないと元本割れする」とよく言われます。これは正確には自分から解約したときの話です。
この共済は、やめ方によって受け取れる額が変わります。自分で解約する場合は、掛金納付月数が12か月未満だと掛け捨て、240か月未満だと掛金合計額を下回ります。ここだけ見ると重い縛りに見えます。
ただ、廃業したときの受け取りは扱いが違います。
共済事由が生じた時点で、掛金納付月数が6か月以上の場合にお受け取りいただけます。(6か月未満は掛け捨てとなります)/共済事由が生じた時点で、掛金納付月数が 36 か月未満の場合は、共済金は掛金合計額と同額となります。
つまり6か月以上納めていれば、廃業なら元本割れしません。短ければ増えないだけです。中小機構の例では、掛金月1万円で5年納めた場合、掛金合計60万円に対して受取額は621,400円になります。
配達をやめる=個人事業の廃止は、まさにこの有利なほうに当たります。「20年縛り」を理由に見送るのは、配達員の場合は少し話が違うと思います。
ただし「配達をやめれば廃業」ではない点に注意が要ります。中小機構は、複数の事業を営んでいる場合はすべての事業を廃止したことを条件にしています。配達をやめても他に事業所得があれば、廃業したことになりません。掛け持ちしやすい仕事なので、ここで詰まる人が出ます。
配達をやめただけでは廃業にならない
他に事業所得が残っていると、有利なほうの受け取りに該当しません。自分から解約した扱いになり、元本割れの条件が適用されます。
受け取るときの扱いは、共済金を一括で受け取れば退職所得、分割なら公的年金等の雑所得です。
自分から解約したときは別扱いで、65歳未満なら一時所得、65歳以上なら退職所得になります。「解約は一時所得」と一律に覚えると、65歳以上で外します。なおこの場合は分割受取りを選べません。
iDeCoは60歳まで動かせない
iDeCoは掛金が全額所得控除で、運用益も非課税。制度としては一番強く見えます。
第1号被保険者の上限は月68,000円です。ここに改正が入っていて、令和8年(2026年)12月から75,000円に上がります。国民年金基金と合わせての上限、という点は変わりません。
弱点は流動性です。原則60歳まで一切引き出せません。通算加入者等期間が10年に満たない場合は、受給できる年齢がさらに繰り下がります。
掛金額の変更は、1年(12月分から翌年11月分の間)に1回限りです。収入が月ごとに大きく振れる配達員にとって、この硬さは無視できないところです。
ただし拠出そのものはいつでも止められます。iDeCo公式も「いつでも掛金の拠出を止めることができます」としています。金額を細かく上下させるのが年1回、ゼロにするのはいつでも、という整理です。
止めた後は運用だけを続ける形になります。掛金の所得控除はなくなりますが、口座の手数料は引き続きかかります。
手数料は小口ほど重い
iDeCoは口座を持っているだけで手数料がかかります。国民年金基金連合会の分だけでも、加入時に2,829円、掛金を出すたびに105円です。この105円は令和9年(2027年)1月の引き落とし分から月120円に上がります。
さらに事務委託先金融機関と運営管理機関の手数料が別にかかります(金額は金融機関によって異なります)。
月5,000円ずつ積むと、年6万円に対して連合会の分だけで現行の105円なら年1,260円、令和9年1月以降の120円なら年1,440円です。率にすると2%前後。小さく始めるほど手数料の比率が重くなる構造です。
NISAは節税ではない
NISAは掛金の控除がありません。そのぶん、増えた分(売却益・配当)に税金がかかりません。
枠はつみたて投資枠が年120万円、成長投資枠が年240万円で、併用して年360万円。生涯の非課税保有限度額は1,800万円(うち成長投資枠は1,200万円)です。配達員の入金ペースで、この枠を使い切ることはまずありません。
最大の違いは、いつでも売れることです。売った分の枠は翌年以降に復活するので、一度出したら終わりでもありません。
ただし復活するのは売却額ではなく、売った商品の簿価(取得金額)の分です。金融庁も「商品を売却した場合、翌年以降売却した商品の簿価(取得金額)の分だけ非課税投資枠が復活し、再利用が可能になります」と説明しています。値上がりした分まで枠が戻るわけではありません。
もう一つ、上場株式の配当を非課税にするには受取方法の設定が要ります。国税庁は、非課税となる配当等を「株式数比例配分方式を選択したもの」に限ると明記しています。設定していないと配当だけ課税されます。
もちろん元本は保証されません。金融庁も「預貯金よりも高いリターンを期待することはできますが、元本割れのおそれもあります」と書いています。損が出ても、課税口座の利益と損益通算したり繰り越したりはできません。
課税所得で優先度が変わる
毎月の余りをどこに流すか、という形で並べ直すと、一例としてこうなります。
以下は課税所得を軸に置いた整理です。実際には年齢、運用できる期間、元本割れへの耐性、退職所得控除の枠、すでに持っている資産なども効いてきます。ひとつの前提を置いた並べ方として読んでください。
まず手元に現金
どこかに預ける前に、手元の現金です。走れなくなっても暮らせるお金として、1年分は確保しておきたいところ。会社員の感覚からすると厚めですが、配達員には厚くしておきたい理由があります。
会社員が病気やケガで働けなくなると、健康保険から傷病手当金が出ます。最長1年6か月、日額のおよそ3分の2。市町村国保には、これに当たる法定の給付がありません。
国民健康保険法は傷病手当金を「条例又は規約の定めるところにより……行うことができる」と定めていて、実施するかどうかは市町村次第の任意給付です。原則ないもの、と見ておくのが安全です。
走れなくなった月から、収入はそのまま止まります。
数える分母にも注意が要ります。生活費だけでなく、任意保険料・国民年金・国民健康保険料・車両のローンといった固定費を足した額の1年分です。
走れなくなっても、任意保険も国民年金も国保も、引き落としは止まりません。
労災の特別加入をしていれば休業給付(日額の8割・4日目から)で一部は埋まりますが、対象は業務中の災害だけ。私生活の病気やケガには効きません。
1年分が貯まるまで他を一切やるな、という話ではありません。ただ、ここが薄いままiDeCoに入れると、いざというときに動かせるお金がない。順番としては現金が先、というだけです。
課税所得がまだ低い(おおむね200万円以下)
控除の戻りは掛金の2割弱です。月1万円ずつ(年12万円)を60歳まで凍結して、返ってくるのが年2万円という交換になります。稼ぎが月ごとに振れる仕事で、しかもiDeCoは掛金を年1回しか変えられない。多い月に増やして薄い月に減らす、ができません。
まずNISA、というのは筋が通ります。入れる額を毎月変えられて、必要なら売って戻せる。控除はありませんが、フローが不安定なうちはそこが効きます。
課税所得が育ってきた
戻りが増えるぶん、控除系の順位が上がります。本業で走っていて廃業リスクが現実的なら、小規模企業共済が扱いやすいと思います。掛金をいつでも増減でき、所得がなければ掛止めもできるので、月の振れをそのまま吸収できます。iDeCoはその後です。
どの段でも
付加年金は月400円なので、所得帯に関係なく済ませておいてよい類です。
自分がどの段にいるかは、去年の申告書の「課税される所得金額」を見れば分かります。売上ではなく、そこを見てください。
まとめ
- どこかに預ける前に手元の現金。市町村国保に法定の傷病手当金はないので、固定費を含めて1年分は確保しておきたい。
- 4つは「入口の控除」3つと「出口の非課税」1つ(NISA)に分かれる。NISAは節税商品ではない。
- 控除の戻りは税率次第で、国保料は下がらない。課税所得が低いうちはNISAが優先しやすい。
- 稼ぎが振れるなら「後から動かせるか」も判断材料。iDeCoは金額変更が年1回(拠出停止はいつでも可)。
- 小規模企業共済は給与所得があると入れない。廃業はすべての事業の廃止が条件。
制度は改正されることがあります。加入前に、下記の公式情報で最新を確認してください。
出典
- 日本年金機構「付加保険料の納付」(月額400円・国民年金基金加入者は納付できない)
- 日本年金機構「付加保険料に関する電子申請」(付加保険料納付申出書は電子申請の対象)
- 日本年金機構「付加年金」(年金額=200円×付加保険料納付月数)
- 中小機構「小規模企業共済 制度のしおり」(PDF・令和8年4月改訂版/2026-08-23確認。共済事由と共済金の額、解約手当金の支給率、節税額一覧表)
- 中小機構「小規模企業共済 加入資格」
- 中小機構「共済金等請求・解約」(共済金Aは全事業の廃止が条件・掛金納付月数6か月未満は掛け捨て・任意解約は65歳未満が一時所得/65歳以上が退職所得)
- 中小機構「小規模企業共済の資格要件についてのよくあるご質問」(給与所得がある場合は加入できない)
- 厚生労働省「iDeCoの概要」(第1号被保険者の拠出限度額・国民年金基金・付加保険料との合算)
- 厚生労働省「iDeCoがパワーアップします!」(PDF・2026-08-23確認。令和8年12月から第1号は75,000円)
- iDeCo公式「iDeCo加入者に係る手数料を見直します」(PDF・2026-08-23確認。令和9年1月から月120円)
- iDeCo公式「iDeCoの加入資格・掛金・受取方法等」(原則60歳から・掛金額の変更は年1回・拠出はいつでも停止できる)
- 金融庁「NISAを知る」(年間投資枠・非課税保有限度額・復活するのは売却した商品の簿価の分)
- 国税庁「No.1535 NISA制度」(損益通算・繰越控除はできない/非課税となる配当等は株式数比例配分方式を選択したものに限る)
- 新宿区「保険料所得割額算定方法について」(各種所得控除は適用されない。国保料の賦課・算定は市区町村の所管のため自治体ページが一次情報)
- e-Gov法令検索「国民健康保険法」(第58条第2項・傷病手当金は条例で定めるところにより行うことができる任意給付)
- 厚生労働省「傷病手当金について」(PDF・第132回社会保障審議会医療保険部会 資料1-3/2026-08-23確認。被用者保険は最長1年6か月・日額の3分の2)
本記事は一般的な情報の整理です。加入の可否や個別の判断は、日本年金機構・中小機構・国税庁・お住まいの市区町村などの公式情報、または税務署・税理士へご確認ください。